Wikipediaに『専門情報機関総覧』を載せてみた

1948年赤坂離宮(現迎賓館)に開館した国立国会図書館アメリカ国防総省の写真, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で)

アカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg)の公式メールマガジン「ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)」908号(2022年6月27日)に投稿した、「Wikipediaに『専門情報機関総覧』を載せてみた」を再録します。掲載に当たりほんの少し手を加えました。

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2022年6月の始めに『専門情報機関総覧』の記事をWikipediaに書きましたが、その際に図書館の提供する情報が実に役立ったので、そのことを記録しておきます。

■きっかけ
ある専門図書館のことを調べていたとき、そうだ、『専門情報機関総覧』(以下『総覧』)の記載事項を追えば沿革についてのヒントが得られるのでは、と考えました。『総覧』は専門図書館協議会(以下、協議会)が3年に1度出版している、全国の専門図書館の名鑑です。
早速図書館の所蔵状況を調べ、某大学図書館にだいたいあることがわかったので出かけることにしました。あらかじめネットでわかる情報から全体像を整理し、一覧をエクセルにまとめたのは、5月末の事でした。

そうしているうちに、この『総覧』自体がすばらしいレファレンスブックであることをじわじわと再認識してきました。しかし『総覧』についてまとまった情報は見当たらなかったので、概要をWikipediaに記事として載せておこうと思い立った次第です。

■現物調査
『総覧』は1969年以降およそ3年ごとに協議会が出していますが、創刊はさらに古く1956年で、これは『調査機関図書館総覧』というタイトルでした。国立国会図書館サーチ(NDL Search)で調べるとなんとこの資料はデジタル化されていて、始まったばかりの「個人向けデジタル化資料送信サービス」(以下、NDL「個人送信」)の対象となっています。アクセスするとすぐに手元のパソコン上に本の書影が現れ、思わず目を見開いてしまいました。

『総覧』のほうは1969年版から最新の2018年版まで、計17冊刊行されています。いずれも日本語ですが、調べると途中で英文版が3回出版されていることがわかりました。このうち2冊は同じ大学図書館で閲覧できましたが、残りの1冊はCiNiiではみつからず、NDLの関西館にはあったので、取り寄せを申込んで閲覧しました。

■参考文献調査
並行して『総覧』について書かれている文献を調べました。NDLサーチやCiNiiでは25件ほどの雑誌記事がヒットしました。それを一つひとつチェックしていくと、なんとほとんどの記事はNDL「個人送信」で閲覧できることがわかりました。閲覧できない2001年以降の雑誌記事や調査中に判明した書籍は、大学図書館で見ることができたので、ほんの数日でほぼすべての文献に目を通すことができました。

Wikipedia掲載
参考文献を読んでいくうちに、『総覧』がなぜ刊行されたのかという経緯がわかってきたので、まず「刊行経緯」についての情報をまとめました。また各版の編集体制についても多くの記事があったので、概要を拾っていきました。図書館を支える「人」についてはなかなか追っていくのが難しいので、できるだけ先達の名前をいれるようにしました。

次に、書誌情報を表形式にしてみましたが、レファレンスブックは内容へのアクセス方法が大事なので、どんな索引があるか各版の中身を確認してまとめました。また表紙の「色」へのこだわりが長年引き継がれていることがわかり、これもアクセス方法に関連するので表に取り入れました。表を作った後は、機関ごとに記載されている本文の内容を簡略にまとめ、統計と索引についても、項目を分けてふれました。

■感想
これまでどこかの専門図書館を調べるために『総覧』を使ったことはありましたが、この『総覧』が多くの専門図書館人によって営々と刊行され続けていることが、あらためて深く心に響きました。そして今回、調べ始めてから1週間ほどでWikipediaに記事を出すことができましたが、これは閲覧を受け入れてくれた大学図書館と、NDL「個人送信」のおかげです。組織に属さない市民にとって図書館はいかに大切な知の基盤であるか、身に染みて感じた次第です。Wikipediaは進化する百科事典なので、載せた記事は完成形ではなく、多くのウィキペディアンによる今後の加筆修正を期待しています。

■参考
専門情報機関総覧 - Wikipedia