『ARG』に本の出版について投稿しました

『ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)』975号(2023年10月9日発行)

アカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg)の公式メールマガジン「ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)」975号(2023年10月9日)に投稿した、「『70歳のウィキペディアン』を出版します」を再録します。メルマガの登録はこちらへ。

「『70歳のウィキペディアン』を出版します」

門倉百合子(独立系司書)

 このたび『70歳のウィキペディアン』という本を出版することになりました。どんなことを書いたかは本を読んでいただくことにして、どうして書いたかの理由の一つに、たくさんの方にウィキペディアンになっていただきたい、ということがあります。なぜそう考えるようになったか、3つのフェーズにまとめてみました。

■第1フェーズ:自分の知っていることを書く
 2016年から書き始めたウィキペディアですが、最初のうちは、自分のよく知っている音楽の話題を書いていました。日本語版ウィキペディアではアニメや鉄道関係の記事はものすごく詳しく充実してるのですが、私が普段馴染んでいる音楽の記事はとても手薄な印象でした。
 知っている作曲家も作品も不十分な情報しか載っていなかったので、知っていることを典拠付で載せ、すでにある記事には出典を追加する、ということをずいぶんやりました。しかしやってもやっても載せたい情報が多く、いつまでやったら終わるのかなあと呆然とし、これは仲間を増やさないと、と思うようになりました。

■第2フェーズ:自分の知らないことを調べて書く
 そのうちに、自分の知らない情報を載せる楽しみに気づきました。あるとき見知らぬ外国人から突然メッセージがきて、「Doppoan-Choha」について質問されました。そんな言葉は見たことも聞いたこともありませんでしたが、調べると江戸時代の俳人清水超波」の別名とわかり、ウィキペディアに載せておきました。
 この俳人に縁もゆかりもありませんが、地球のどこかの人が興味を持っていることを知ったのは楽しいことでした。また調べる過程で様々な図書館が提供する情報を駆使することになり、現代の図書館が集積している情報がいかに役立つか、身に染みてわかるようになりました。

 そもそもその分野の専門家は専門知識をウィキペディアで調べたりはしないでしょう。そうではなく自分の知らない分野について概要を知りたい、というのがウィキペディアの一般的な使い方ではないでしょうか。ですから微に入り細にいるような詳しい情報でなく、一般の人が読んでわかりやすい簡潔な記事がウィキペディアに求められていると私は思います。
 そうした記事は専門家よりも、門外漢の方がわかりやすく書ける場合もあるのです。完璧な記事でなくても、後から別の方が修正追加してくれる可能性があるのがウィキペディアなので、わかる範囲の情報を出典付きで載せればいいのです。これなら専門家でなくてもできるので、いっしょにやってくれる人はいないかなあといつも考えていました。

■第3フェーズ:外国語版ウィキペディアの記事を翻訳する
 日本語の記事を新たに書くだけでなく、外国語版ウィキペディアから翻訳する、という楽しみにも出会いました。だいたい私の知りたいと思うことの多くは日本語版になく、外国語版にあることが多かったのです。典拠のしっかりした記事なら翻訳する価値があります。
 自分の狭い関心の中で翻訳したもののうち、「ファミリーサーチ」「灰色文献」「ヤニナ・レヴァンドフスカ」などはウィキペディアの「新しい記事」に選ばれて嬉しかったです。これは毎日作成される記事の中からウィキペディアンの投票により選ばれるもので、そうするとメインページに1日間掲載されます。すると多くのウィキペディアンの目に触れるので、より良く修正されたり新しい情報が追加されたりする可能性があるのです。
 この中の「灰色文献」は図書館関係者にはよく知られた言葉ですが、一般にはなじみが薄いのだとわかりました。図書館関係用語で外国語版ウィキペディアにあって日本語版にないものは多く、ここでも仲間を増やしたいと思いました。ウィキペディアには300以上の言語版があり、図書館関係に限らず日本語版に載っていない記事は数知れず、ウィキペディアンが何人いても足りないなあ、というのが正直な気持ちです。

 すべての記事がすべての言語版に載っているのは理想ですが、そこまでいかなくても世界中の人たちと共通の概念で物事を考えることができれば素敵です。「違い」があることをお互いに認めつつ、それぞれの価値観に敬意をはらいながらコミュニケーションをとる上でも、自分のできる事を一つずつ進めていこうと思います。あなたも仲間に加わってみませんか?

■本の概要
門倉百合子著『70歳のウィキペディアン:図書館の魅力を語る』(郵研社、2023年11月、税込1980円)図書館総合展2023「1day出展」に参加し、10月24日(火)パシフィコ横浜アネックスホール内で先行販売します。25日(水)は1day出展「みづほんやさん」に置かせていただきます。
図書館総合展1day出展
https://www.libraryfair.jp/feature/2023/65
・「70歳のウィキペディアン」のブログ
https://wikipedia70.hatenablog.com/

[筆者の横顔]
門倉百合子(かどくら・ゆりこ)。人生100年時代をWikipediaの編集で満喫している独立系司書。1977年より種々の専門図書館で仕事を重ねる。2005年から2017年には公益財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター(現・情報資源センター)にて、「渋沢社史データベース」を始めとした種々の情報資源開発に携わった。2016年からWikipediaの執筆を開始し、これまでに約170件の記事を作成、加筆している。

※この文章はクリエイティブコモンズライセンスCC-BYにて公開します。