『夢見る「電子図書館」』を読む

中井万知子『夢見る「電子図書館」』郵研社刊

中井万知子著『夢見る「電子図書館」』を読みました。著者は国立国会図書館(NDL)で総務部企画課電子図書館推進室長を務めた方で、NDLの草創期から現代にいたる電子図書館事業の軌跡を内部の視点からまとめられた本でした。毎日のように利用しているNDL提供情報のあれこれについて、それぞれが生まれた経緯、現在の形態に変化していった様子、それを担った方々の志などを、わかりやすい語り口で提示してくださいました。

この本を知ったのは、SNSである方が推奨されていたからです。出版社はどこかとネットで検索すると、なんと私の『70歳のウィキペディアン』と同じ郵研社の最新刊でした。もうひとつ驚いたのは、著者が私と同い年だったことです。私の司書人生とほぼ同じ時間をNDLの中で過ごしてきた方の経歴は実に興味深いものがありました。

早速入手して読みましたが、電子図書館事業を先頭に立って牽引した田屋裕之さんの足跡を丁寧に追っておられました。各章の冒頭に田屋さんの語られた言葉の多くが引用されているのを読み、その足跡の大きさに改めて気づかされました。はるか以前に田屋さんの講演を聴いた覚えがあります。活躍されているのを遠くからうかがっていましたが、60歳で病没されたのは残念なことでした。

2007年から2012年まで館長を務められた長尾真先生の業績は数多く語られていますが、就任のご挨拶が引用されていたのでその中から抜き書きします。

私は日本の図書館界の標語として「知識は我らを豊かにする」という言葉を掲げたいと思います。(中略)専門的知識は技術を創造し、社会経済を発展させますが、広い豊かな知識はより良い文化を創り出し、人々の心を豊かにし、平和な社会を実現するための原動力となるものだからであります。(p181-182)

この言葉だけからも、長尾先生の深い信念と志がうかがえます。この言葉の説明の中で中井さんは、「国立国会図書館法の前文に掲げられた『真理がわれらを自由にする』という語句を援用し、自ら標語を作るというのは、これまでの館長には考えられない発想であったと言えよう」(p183)と書いておられるのも心に残りました。

もうひとつ、第2章の冒頭に図書館の機械化についての中村初雄の言葉が引用されていました。中村は当時(1954年)NDL分類課長だったとありましたが、私にとっては1975年から翌年にかけ慶大図書館・情報学科で教えを受けた恩師でありました。ドイツ語が達者でらして、同窓会報に載った追悼記事を読み返すと、ミュンヘン大学で理学博士号を取得、とありました。

巻末には、参考資料として「国立国会図書館法(抄)」、参考文献、関連略年表、そして索引が付されていました。表紙絵がどこかで見たことのあるアルチンボルドの『司書』の画を加工したもので、目を引きます。描かれた司書が夢見ているのはどんな電子図書館でしょうか。

■書誌事項
夢見る「電子図書館」 / 中井万知子著
郵研社, 2023年9月
279 p ; 21 cm
ISBN 978-4-907126-59-9

図書館総合展で見本を置きます
10月24日(火)の図書館総合展2023「1day出展」70歳のウィキペディアンのブースに、この本も見本で1冊置きますので、ご覧になってみてください。