伊達深雪「『ウィキペディアでまちおこし』、あなたの町でもいかがですか?」

伊達深雪さんが新著『ウィキペディアでまちおこし』の出版にいたる経緯を、アカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg)の公式メールマガジン「ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)」987号(2024年1月1日)にCC-BYで投稿されたので、ここに再録します。メルマガの登録はこちらへ。

「『ウィキペディアまちおこし』、あなたの町でもいかがですか?」

伊達深雪(edit Tango / ウィキペディア展覧会)

このたび、御縁があり『ウィキペディアまちおこし』という本を紀伊国屋書店より出版いただきました。電子書籍もリリースされます。さすがKinoDen、Kinoppyの紀伊国屋さん。
おそらくは史上初といわれたウィキペディアタウンの専門書である本書の出版までの裏話は、それだけで1冊分書けそうなくらいの苦労話がありますが、本稿では、その道のりをさわりだけ紹介しようと思います。

■すべてはLibrary of the Yearから始まった
Library of the Yearを、「ウィキペディアタウン」という地域の情報を文献調査しオンライン百科事典の項目として発信する活動が受賞したのは、2017年のことでした。
折しもその年、たまたま本職の実践報告で図書館総合展に初参加した私は、偶然にもLibrary of the Yearの最終選考会を見学に来た複数名のウィキペディアンと、名刺交換をする機会に恵まれます。私がウィキペディアタウンを知ったのはこのときが最初でした。

ちょうどその頃、学校司書として高校生の多様な調べ学習に関わっていた私には、ひとつ大きな悩みがありました。それは、私がどんなに心血を注いで役立つ図書資料を用意しても、一部の生徒はまったく手に取らず、インターネット検索で簡単にヒットする「ウィキペディア」なるいい加減なウェブサイトばかり鵜呑みにしていたということです。
おのれウィキペディア、貴様さえ無ければもうちょっとくらい学校司書にも活躍の場があるものを……!それまでは独り悔し涙を飲んでいた私ですが、そんなウィキペディアを自分も編集できるとなれば話は別です。虎穴に入らずんば虎児を得ず。
このうえは先回りして生徒が検索しそうな授業課題をウィキペディアに立項しておき、どうせ本は役に立たないしと最初からネット頼みの生徒の肩を「それについては、もっと詳しい図書資料がこっちにあるよ」とカッコよくたたくためだけに、図書館資料をベースにウィキペディアに地域情報を発信することを決意します。

しかし、一言で「地域情報」といっても多種多様なもの、ひとりで文献調査し情報をまとめていくのは、いかに豊富な文献資料を備える数々の図書館を活用しても容易ではありません。
だれか手伝ってくれる人はいないかな?と周囲を見回してみれば、まちおこし環境保護活動、伝統産業の担い手、移住促進に携わる行政マン、そしてウィキペディアン達、さまざまな人々がさまざまな立場からこの活動に意義を見出し、協働することができました。そんなこんなで2018年秋にスタートした丹後地方のウィキペディアタウンはすでに5年以上、数十回の開催を重ね、気がつけば全国屈指の企画開催頻度と多様性が備わっていたと言っても過言ではないでしょう。

「知る」ということは、すべての始まりの出来事である。本書で繰り返し述べているこの言葉は、ウィキペディアウィキペディアタウンにより飛躍的に人生がステップアップした私の実感です。『ウィキペディアまちおこし』ではその道のりを振り返りつつ、この本が多くの読者にとっての始まりの1冊となることを願いながら書きました。

ウィキペディアタウン、はじめました」「読者から編者へ」「イベントから日常へ」の三部構成のなかで、私自身の経験したウィキペディアタウンを詳説した13本のエッセイと、そのなかで説明しきれなかったサイドストーリーを含む13本のコラムを通して、ウィキペディアタウンの魅力と課題、そして、インターネット百科事典「Wikipedia」の魅力と課題を紹介しました。
2013年に横浜で始まった日本版ウィキペディアタウンの発展と概要を抑えつつ、全国各地の事例から編集イベントで起こりうるさまざまなトラブルへの対処法を紹介するマニュアルの役も果たしつつ、現在そしてこれからのウィキペディアタウンを俯瞰した1冊でもあります。

ウィキペディアは、誰でも自由に編集し利活用できる、誰にとっても身近なコンテンツです。だからこそ、より多くの人のために役立つ優れたコンテンツとして成長していってほしいのです。
そのためには、豊かな教養と健全な精神に育まれた不特定多数の皆さんの協力が必要です。本書がこれまで読者であった皆さんがウィキペディアで自ら発信する一助となること、あるいはそうした人々をサポートすることや“場”を提供する企画者となる一助になれば幸いです。

■本の概要
伊達深雪著『ウィキペディアまちおこし:みんなでつくろう地域の百科事典』(紀伊国屋書店、2023年12月、322頁 税込2,200円/電子書籍版は税込1,980円)
・版元ドットコム https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784314012027
[筆者の横顔]
伊達深雪(だて・みゆき)。2002年5月~京都府立高校の学校図書館司書。情報教育と地域学習にウィキペディア活用を推進し、その一環でウィキペディアタウン開催を支援するボランティア「edit Tango」を創始。全国各地の地域エディタソン開催や教育の場でのウィキペディア活用に関与する。2020年文部科学大臣優秀教職員表彰、第50回学校図書館賞奨励賞ほか受賞多数。勤務校はLibrary of the Year2019優秀賞、ゲーミング図書館アワード2023・ボードゲーム部門優秀賞を受賞。

※この文章はクリエイティブコモンズライセンスCC-BYにて公開します。