WikiGapエディタソン2020:海外の女性音楽家3人

イサベラ・レオナルダ(Kaupunkilehmus, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, ウィキメディア・コモンズ経由で)

2019年にWikiGapエディタソンに参加しましたが、翌2020年9月にも同様にイベントの案内が来ました。しかしコロナ禍での開催で、現地スウェーデン大使館だけでなくオンラインの参加もできるというので、オンラインを申し込みました。書く人物については、「作成が望まれている記事題材リスト」というのが提示されていたので、その中で女性音楽家にしぼって3人を選んでみました。3人とも全く初めて聞く名前でしたが、英語版ウィキペディアからの翻訳に挑戦しました。

■メルバ・リストン(1926-1999):アメリカのジャズ・トロンボーン奏者

アメリカのジャズ奏者といえば、マイルス・デイヴィスとか、デューク・エリントンとか、ルイ・アームストロングとか、何人か思い浮かべますが、みんな男性です。女性のトロンボーン奏者はクラシック音楽で近年増えていますが、メルバ・リストンは1940年代からジャズの世界で活躍していたというので、俄然興味がわきました。といってもジャズに詳しいわけではないので、端から翻訳していっても今一つよくわからないことばかりです。そこで彼女が共演していたピアニスト、「ランディ・ウェストン」について、先に翻訳してみました。彼はアフリカに行ったり、日本にも来たことがあり、日本のファンもいることがわかりました。もう一人、「ビリー・エクスタイン」というバンド・リーダーについても翻訳してみると、当時のジャズ界をめぐるいろいろな事柄が少しずつわかってきました。

こうして周りから近づきながら、本文を訳し終えましたが、「社会的意義」という項目には彼女の女性としての奮闘ぶりがまとめられています。また記事を公開した直後に『メイキング・オブ・モータウン』という米英合作映画が公開され、リストンも仕事をしていたモータウンというレコード会社の歴史だというので観に行きました。「20世紀を代表する黒人大衆音楽の名門レーベル」というモータウンを通して、多民族国家アメリカの一つの側面を感じ取ることができました。

■イサベラ・レオナルダ(1629ー1704):イタリアの作曲家

こちらは一転して17世紀イタリアの修道女の作曲家です。修道女の世界というのも全く未知でしたが、カトリックの世界では司祭は未婚で自ら後継者を作れないので、信者たちは家族の中の一員を教会に送り込むことで、組織体を維持している、という知識に支えられました。イサベラの家も高貴な名門家族で、聖ウルスラ修道会の熱心な後援者であったそうです。イサベラは16歳で修道学校に入り、生涯を修道院で過ごす中で作曲をしたのでした。

200曲に及ぶ彼女の作品は「教会音楽のジャンルをほとんど網羅している」とのことですが、教会音楽のジャンルというのもあまり馴染みはなかったので、訳しながら学ぶことができました。聖歌隊の歌う声楽曲だけでなく器楽曲もいろいろあり、音楽の様式も様々で、当時女性に開かれていなかった様式も使って作曲したそうです。「作品の献辞」についての項目では、聖母マリアに宛てた献辞と、当時の高位の人宛ての献辞が常にセットあり、それは修道院への財政支援を求める必要からだった、という説明に納得しました。また作曲の動機自体にもそういう背景があったのかと思いました。なお、外部リンクからは作品情報へ飛ぶことができます。

■ウム・サンガレ(1968-):マリの歌手

西アフリカのマリ共和国と聞いて思い出したのは、2013年にアルジェリア東部で起きた人質事件で、日本の会社日揮の社員7人が巻き込まれて亡くなったことでした。当時は隣接するマリ北部でも紛争が発生して、人質事件の報道でもマリという国名が出てきました。日揮という会社の社史をその時に詳しく見てブログで紹介しましたので、マリという国名を聞くと日揮を想起したのです。紛争の絶えない地域という印象でしたが、その地にもあたりまえのことながら市井の人々が暮らし、音楽があることを、このウム・サンガレという歌手を知って改めて気が付きました。

さて記事の翻訳を始めてみると、まず「ワスル」という地域名でひっかかりました。これは西アフリカの「historical region」である、と英語版に書いてあるので、これを「歴史的地域」とし、後日記事を別に出しました。確かに現在の国境や行政地域の堺目と文化の境目が一致しないのは、どこの国でもあります。アフリカの記事は初めて接するので、地名だけでなく人名、団体名、楽器名など馴染みのない言葉をねじり鉢巻きで一つずつ訳していきました。どうしても訳せないのは、そのままカタカナ表記したりもしました。

ウム・サンガレは5歳の時に幼稚園歌唱コンクールで優勝しているとあり、その活躍ぶりには華々しいものがあります。貧しい家庭に育ち、母親を助けるために歌手になった彼女は、女性の地位向上のために様々な事業を手がけ、FAOの親善大使も務めているそうです。掲載されている写真を見るだけでも、そのエネルギッシュな活動ぶりが思い浮かびました。
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WikiGapイベントが終わり出来上がった記事91件の一覧を眺めた後で、執筆者、記事名、職業、ジャンル、地域、生年の6項目を抽出して一覧表にし、イベントページに貼ってみました。様々なデータがごそっとあると、すぐ索引を作りたくなるのは司書の性癖なのです。それぞれの項目はソートができるので「地域」でソートしたところ、日本が38件で最も多く、ヨーロッパが26件、アメリカが18件、アジアと中東・アフリカが2件ずつ、という結果でした。今回「ウム・サンガレ」というアフリカの女性も扱ったことで、記事の多様性に少しは貢献できたかなと思います。